月の雫 プロローグ『ねぇ!ねぇ!ねぇ!僕、どんな人のところに行くの? 教えてよ、ミュラー博士! 優しい人のところがいいなぁ・・・ 僕を可愛がってくれる人のところ!』 あのころが、懐かしかった。 今の運命を夢にもみず、ただ飼い主との新しい生活を楽しんでいたあのころ。 「ぼく、あの金色の月に言ってみたいんだぁ」 その一言が、この生活の扉を開ける鍵、となった。 その言葉を聴いた雫の飼い主は、雫を捨ててしまったのだから。 「やだよぉ。僕、いい子にするから。捨てないでッ・・・」 いまは、人への憎しみしかない。 憎い。憎い。憎い。 周りで飼い主たちと楽しそうに跳ね回るリヴリーたちを見ると、自然に顔がゆがんでしまう。 うらやましくて、悲しくて、そんな自分が憎くて。 生き延びてやる。 その思いしかなかった。 そう。あのときまでは――――― |